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今日はいちゃいちゃの日なの 11

 そうして互いに身体を摺り寄せながら、手探りのリモコン操作で、DVDの再生をスタートさせた。
「……私達に、魔法使いの映画見せて、どうするつもりなのかなぁ……」
 アリサの選択感覚に、なのはは困ったような笑顔を浮かべた。
 でも、これもアリサの「親心」。何かの理由で故郷の世界に帰ってきたとき、世間の話についてこれないと困るだろうからと、話題になったものは、こうして送ってきてくれる。
「箒がないと飛べないのは、不自由だね」
「まぁ、申請手続きとか、後で報告書は要らないみたいだけどねぇ」
 フェイトの指摘に、なのはは笑った。
 その間もフェイトは身体をぴったりと寄せ、なのはの肩に頭を預ける。なのはも同じようにフェイトにもたれかかり、互いで互いを支えあう状態。

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今日はいちゃいちゃの日なの 12

「ふーん、じゃぁ、この手はなにかなぁ?」
 自分の胸元に置かれた掌の事を問うなのは。
「え………え~と………」
 フェイトは暫く考えて、
「し……シートベルト?」
 自分がリクライニングシート扱いされたことを利用して、そう言った。結構、ウィットを利かせたつもりだ。
「ふーん、じゃぁ、揺れるのかなぁ? フェイトちゃんが、ベッドで、私の脚を抱えて、ぐっぐっ、ってするときみたいに?」
 さり気なさのなかに、えらく際どい例えをだされ、フェイトは真っ赤になる。

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今日はいちゃいちゃの日なの 13

 だが、次のチップは少し大きすぎた。なのはの唇にそれを挟むと、2/3くらいがはみ出す。
 先ほどと同じようにチップを引き抜いたなのはだったが、今度のは呑み込もうとしない。そして、下からフェイトの事をじっと見上げている。
 フェイトはなのはの意図を測りかね、少し戸惑った。
「んー」
 口にチップを咥えているので、しゃべることのできないなのはが、何かを訴えかける。はみ出たチップの先端がヒクヒクと蠢いた。
 それを見たフェイトは、ハッとした顔をする。以心伝心。なのはの意図が判った。
 だが、そんな事をしていいのだろうか? と少し躊躇う気持ちも起こる。

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今日はいちゃいちゃの日なの 14

「うそだよ……」
 悪戯っぽく笑うなのはに、からかわれたとようやく気付いて、フェイトは眉根にシワを寄せた。
「フェイトちゃんの寝顔は可愛いけど、怒った顔もすてきだね……」
「知らない!……」
 ぷいっと横を向こうとするが、なのはの腕の中にすっぽりと包み込まれていては可動域には限界がある。それどころか、両掌で頬を挟まれて、正面を向かされてしまう。上から優しい目で見下ろすなのはの顔。

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今日はいちゃいちゃの日なの 15

「どう……して?……」
 返ってくる答えは判っていたが、フェイトはあえて聞いてみた。
「『美人は三日見ると飽きる』……って言うでしょ?……」
 なのはは優しい笑みを浮かべて言った。
 三日どころか、もう10年もこうして関係を維持しているのに、この例えも無いものだと思うが、いつもなのははこの答えを返してくる。
 フェイトは、熱のあるような潤んだ瞳で、しばらく黙ってなのはを見上げていた。
 それが、図らずもなのはに続きを促す事になった。

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今日はいちゃいちゃの日なの 16

 頬を染め、ぽぅっとなのはに見とれていたフェイトの前に、ぬっと薄茶の球体が突きつけられた。
 玉ねぎだ。
 ひとつを受け取ると、続けてもうひとつ渡され、慌てて片方づつの手に持つ。
「ひとつはみじん切り、もうひとつは乱切りでお願いね」
 一緒に作った事は何度かあるから知ってはいるはずだが、なのははきちんとオーダーを出した。
「うん……」
 返事をしたフェイトは、玉ねぎの皮を剥いて白地を出すと、包丁で半分にして、まずは水にさらす。涙が出るのを防ぐためだ。

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今日はいちゃいちゃの日なの 17

「うん……」
 フェイトも言って、振り返る。
 なのはは、両手にひとつづつ持った皿をテーブルに置いた。配置は今朝と同じで、角を挟んで対角面を使っている。
 それからおもむろに手を伸ばすと、スティックシュガーのような銀の包みを二つ、手に取った。辛味を増す調味料が詰まった袋で、子供用の甘口が、ひとつ入れると中辛、二つ入れれば辛口になる。
 なのはは割りと辛めが好みなので、カレーを作った時は、いつもこの調味料を使っているから、フェイトもその挙措を特に気にしなかった。袋の封を切って、中身を片方の皿にふりかけたのも、いつもどおりだと思った。

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今日はいちゃいちゃの日なの 18

 うわ……うわ……うわぁ……
 フェイトの胸がかあッと熱くなる。
 意味もなく叫びたい、その辺をゴロゴロと転げまわりたいという、よくわからない衝動に駆られた。じっとしているのが耐えられないくらいに辛い。
 か細い理性の糸でなんとかそれを堪えて、どうにか平静を保ったフェイトの前に、ふたたび差し出されるスプーン。
「はい、あーん」
 なんとも嬉しそうななのはの表情がたまらない。
 胸のドキドキを聞かれるのではないかと気をもみつつも、出来るだけ大きく口を開いてなのはのスプーンを迎え入れる。

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今日はいちゃいちゃの日なの 19

「うふふ……」
 目を細め、堪えきれないという様子で含み笑いをもらすなのは。遠距離砲撃を得意とする自己の特徴らしからぬ素早さでフェイトの背中に回ると、両肩をぐいぐいと押して、前に歩かせる。
「な……なに?……」
 いぶかしみながらも、後ろから押され、肩に添えられた手で方向を変えられるままに歩くと、着いたところは浴室の前だった。
「お風呂?……」
「一緒に入ろ、フェイトちゃん」
 肩越しに、いたずらっぽく笑った顔を突き出し、なのはがフェイトを優しく抱きしめる。

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今日はいちゃいちゃの日なの 20

「フェイトちゃん、それじゃ、うつ伏せになってよ」
 と、条件をコロリと変えて、反応を伺ってみる。まるで模擬戦の時に間合いを外すような感じで。
 案の定、フェイトはいきなりの条件変更提示に面喰って、目を点にしている。
「背中だったら、いいでしょう?」
 そう言って、押し倒したフェイトの頬を左手で軽く撫でる。
 その指の先に魔力スクリーンがひとつ開かれた。フェイトからも見えるその小さな画面に、動画が映し出される。女性がマッサージをされている場面の動画で、どうやらエステ店の教習用のものらしい。何処でこんなものを手に入れてくるのだろうか。

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